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幻視者の夢

先週末、『ルドンの黒、眼をとじると見えてくる異形の友人たち』展を見てきました。
場所は渋谷東急Bunkamuraザ・ミュージアム。

http://www.bunkamura.co.jp/shokai/museum/lineup/07_redon/

20070828033327.jpg


タイトル通り、象徴派の代表的画家(とは必ずしも言い切れない気が個人的にはするが)オディロン・ルドンが40代のころまで造り続けた素描と版画が中心。が、実はボクが本当に好きなのは彼が色を使い出してからだったりする(笑)。先月もレビューしたブリヂストン美術館所蔵の作品のように、輪郭や形状より「色そのもの」が先行して世界に顕現したとでもいうような、神秘的な味わいが好きなのだね。勿論、

http://www.bunkamura.co.jp/shokai/museum/lineup/07_redon/works.html

このページを見て頂ければお分かりの通り、ルドンの前半生はまるで現代アートや挿絵イラスト、ゴシック・ダーク系コミックを先取りしたかのような、奔放なイマジネーションを独創的な形状に換えることに費やされている。しかも決してグロテスクな怪奇趣味に浸ることはなく、「ゲゲゲの鬼太郎」の「目玉おやじ」や、「もののけ姫」の「タタリ神」の祖先かと思わせる(笑)、適度にポップな、愛すべきキャラクターが多いのが特徴だ。

生前の彼の言葉に、

「私の独創性はすべて、目に見えるものの論理を可能な限り目に見えないものに役立たせることによって、ありそうもない存在たちを、本当らしさの法則に従って、人間的に生きさせることにある」

というものがあるらしいが、これは水木しげるさんや京極夏彦さんの世界にも通じる、妖魅を仲立ちとした高尚なユーモア精神の表明ともとれるね。

20070828033450.jpg


さて、ルドンの生きた時代(1840-1916年)とは、世界史的に言えばアヘン戦争から第一次世界大戦の期間に相当する。文字通り白人ヨーロッパ文明が世界を侵食し、同時にゆっくりと内部から解体し始めた時期だ。人も社会も国家も機械化、合理主義化されていく中、既成宗教とヒューマニズムの失墜と入れ替わりにニヒリズムとオカルティズムが結合し、やがてはナチズムに代表される巨大な人類史的狂気を生み出していく。

幸福なことに、ルドンの「黒の世界」はそうした近代文明の末期的堕落に汚される前に頂点に達し、同時代の自然科学的成果から幻想文学者の影響をも取り込んで、幽鬼的かつ諧謔的な...それは一般社会から隔絶した個人趣味の極致のように見えて、実は豊潤な知識に裏打ちされた博物学的世界の中身を「羅列」していったともいえる。

例えば、半世紀ほど後の世代のアメリカの代表的幻想作家ラヴクラフト(1890-1937)の仕事などと比較すると、ルドンの描く闇の世界はヒトと未来への希望に満ち溢れている気さえするのだね。そう、彼の「黒」とは世界を暗く塗り潰すためのネガティヴな漆黒ではなく、当時最先端の顕微鏡を芸術家にのみ許された「魔法」でアレンジし用いたかのように、物質と精神の細部を照らし明るみに晒すための方法論ではなかったか。19世紀末から20世紀初頭の近代ヨーロッパが、諸科学と芸術とが織り成す最後の百科事典的虹彩であったとするならば、彼の仕事もまた、人のココロ、生と死の行方、生物の進化/退化といった自然現象に実証的に向かい合った時代精神、黄金期に呼応していたと言ってよい。後半生の自在な色彩の世界は、ようやく手にした家庭生活の充足に加え、新しい世紀と古典的世界が融合せんとする、文字通りに「啓示」めいた情動を見る者に予感させてくれる。

20070828033547.jpg


が...

人類の夢も神も奇跡も異形の人外も大宇宙の興亡も、全ては見果てぬ物語であるが故に、それらを希求した優しいルドンの作品はボクの心を切なく揺さぶるのかもしれないな。第一次大戦に出征した最愛の息子アリ(作品のモデルにもなっている)の安否を案じつつ、この天才画家は息を引きとったという。やがて時代は近代進歩主義の両極、資本主義「=帝国」と左右の全体主義という真のリヴァイアサンとビヒモスを地上に生み落とし、あるものは滅びあるものは変形してなおも暴走を続けている。現代に生きる我々はもはや、その物理的脅威を「肉眼」で確認することが出来るのだ。

時には「目をとじて」、触れ得ぬ異形の世界に慄くことも肝要なのだろう。
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